熱伝導の備忘録(基礎①)

 熱伝導率とは、読んで字の如し熱の伝わりやすさを表す物理量です。マニアックな話をする前に基本を思い出しておきましょう。

 簡単のため一次元方向の熱伝導について考えます。熱伝導率は以下のフーリエ(Fourier)の法則によって定義されます。

 

ここでqが熱流密度、κが熱伝導率です。元々はビオ・サバールの法則で有名なビオ(Jean-Baptiste Biot)による発見ですが、フーリエによって現在の形に定式化されました。

 なお、フーリエの法則は熱を輸送するキャリアの平均自由行程λの長さが物質の長さLと比較して十分に短い(λ<<L)場合に成り立ちます。これは熱キャリアが他のキャリアとの衝突などによって曲げられ、ジグザグに進んでいるような状況に対応します。このような熱伝導を拡散的熱伝導と呼びます。逆に、λがLよりも十分に長い場合は物質中で熱キャリアが散乱されずに高温側から低温側に移動します。このような熱伝導を弾道的熱伝導と呼び、ナノスケール材料などにおいて重要になってきます。弾道的熱伝導ではフーリエの法則が成り立たないので注意しましょう。

 

 気体分子運動論による議論により、熱伝導率には以下の関係が成り立ちます。

 

ここでCは熱キャリアの熱容量、νは熱キャリアの速度です。この式から、熱伝導率の議論をする上で重要となる以下の特性が示されます。

 

①局在的な熱現象を検出しない。

 何かしらの熱キャリアの移動を伴わない(つまり速度νが定義できない)熱現象は熱伝導率測定に検出されません。代表例としては、原子の核スピンの励起があります。核スピンを持つ元素を含む物質の熱容量測定を行うと、低温においてスピンの準位構造を反映したショットキー型の熱容量が観測されます。しかし核スピンの励起は局在した励起であるから、熱伝導には寄与しません。

 

②温度依存性・絶対値の議論が難解である

 値を決定するパラメータが三つも存在し、それぞれが複雑な温度依存性を示します。従って熱伝導率の温度依存性や絶対値から精緻な物性議論をするのは非常に困難です。特に複数の熱キャリアが存在する物質の熱伝導を議論したいときには、物質間比較や試料依存性などの高度な検証、そしてミクロなメカニズムに対する深い洞察と信心が必要になるでしょう。